池田屋騒動の一件以来、新選組では、浅葱色の隊服の着用を禁ずることになった。
それも、この事件で新選組が脚光を浴びるようになったからだ。
「だんだら1人斬ったらなんぼ…」
と、隊士の首に賞金までかかっている。
隊服を偉く気に入っていた近藤は、ひどく落ちこんでいたようだが……



「だって、あの隊服じゃ、何処歩くにも目立ちすぎるよね。」
洗濯物を干しつつ、はそう呟いた。
その時だった。




何処からか現れた人影が、ものすごい勢いで近づいてきた。

「おぉ〜!さん。こがな所におったか!」

近づいてきたのは、時々屯所に突如出没する才谷梅太郎だった。

「こんにちは、梅さん。今日は一体…………どうしたんですか?その服装!」















何と才谷は、先日着用禁止になった、例の隊服を羽織っているではないか。
「どうじゃ?よぅ似合ぅとるじゃろ?」
「似合ってますけど………うちの隊士でもないのに何故?」
「前におまんが、わしを新選組に誘ってくれたやお?」
確かに、以前才谷が屯所に現れた際に、そんなことも言ったが……
「入隊できずとも、志は同じく!そう思うたき、羽織ってみたぜよ。」
「はぁ…………」


呆気に取られるをものともせず、才谷はこう言い出した。
「これから一緒に、外へ行かんか?」
「……………え?」
「美味しい甘味処を見つけたき、おまんと一緒に行きたいが。」




「その格好で……ですか?」

「何か問題でもあるかや?」

「隊服着てると、討幕派の人から狙われますよ?」



「あ〜そがなこと気にせんでえいが!わしは狙われ慣れとるき!」



そう言って才谷は声を上げて笑うと、の腕を掴んだ。
「さぁ、れっつらごぉじゃ!」
「えぇっ!?うっ……梅さん!?」
困っているを、才谷がずるずると引き摺り始めたその時。







「才谷さん、こんな所にいたのか。」







声のする方を振り返ると、そこには山南が立っていた。
「無理強いはよくないよ。君が困ってるじゃないか。」
そのまま、才谷の側まで歩み寄ってくると、の腕を掴んでいた才谷の手を引き剥がした。
「君が志を共にしたいというから隊服を貸したというのに……」
ため息をつきながら、眼鏡を上げると、才谷に笑顔を向けてこう言った。




「目的が、君に言い寄る為だったのなら、隊服は返してもらうよ。」




才谷もも、その笑顔で山南が怒っていることを感じ取る。
「残念じゃのぉ〜…」
才谷はしぶしぶ隊服を脱ぐと、それを山南に手渡した。
隊服を受け取った山南は、を才谷の元から自分の方に引き寄せると、こう付け加えた。


「もちろん、君も返してもらうよ。」
「山南さん!?」


そのまま、山南はを連れて屯所の中へ戻っていってしまった。
才谷はただなす術もなく、2人の影が見えなくなるのを見送るのだった……









あとがき

「隊服」と聞いて真っ先に浮かんだのが、梅さんでした。
絶対に着ることのできない人に着せてみたい…と。
才谷×桜庭になるか?と思いきや…あっさりと
山南さんに妨害されてしまう可哀相な梅さん(笑)。
第5章の尊王攘夷を語るシーンで、山南さんがささやかに
梅さんに嫉妬してくれるところが好きでして……(^^ゞ
気がついたら、山南×桜庭っぽくなってました。
ごめんね梅さん(爆)。
でも梅さんも好きなのですよ。



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